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【鬼滅の刃】屋烏之愛【新装版】

第12章 進物 後編【冨岡義勇】





「おい。お前さっきから、顔がこえーんだよ!」

右側の入り口から迷宮内に入場した天元は、心ここにあらずとばかりに、真顔で後ろを着いてくる陽華に振り返ると、思わず突っ込んだ。

そんな天元に、陽華はチラッと視線を向ける。

「私のことは、気にしないでください。今、自己嫌悪に陥ってるんです。」

そう力なく答える陽華に、天元は「あっそォ。」と返し、また前を向いて通路を歩き出す。

陽華はその後ろ姿を見ながら、小さくため息をついた。

(……何も言えなかった。)

私も義勇さんが好き!そのたった一言が、勇気を出せずに言葉に出来なかった。

あの瞬間、浮かんでしまったのだ。義勇としのぶが仲睦まじく歩く、その似合い姿を。

しのぶは誰の目から見ても可愛い。義勇と並んでも何の遜色もないだろう。その上、優しいし、頭だっていい。

(義勇さんだって……きっと…、しのぶちゃんの方が……、)

正々堂々と戦ったとしても、きっと自分に勝ち目などない。それが分かるからこそ、言い出せなかった。


負けるのが怖くて、戦わずに逃げたのだ。


(情けない。こんなのもう…義勇さんの横に立つ資格もないよね。)

陽華は溢れそうになる涙を上を向いて堪え、今度は大きく深く、息を吐き出した。

それを背中で聞いていた天元は、苦笑いを浮かべた。

(こりゃ、相当堪えてんなぁ。)

いつも笑顔で元気一杯、騒がしい陽華しか見たことがない分、その差に天元も驚いていた。



先程のしのぶと陽華の会話。どのような会話が成されたのか、耀哉の台本を聞いている天元は当然知っていた。

陽華が身を引いて天元側に来る。という耀哉の予言のような言葉には半信半疑だったが、流石はお館様というべきか、事はその思惑通りに進んだ


後は陽華を焚き付け、やる気を奮い立たせて、耀哉の考えたある計画にまで話を持っていくのが、天元の役目なのだが……、






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