第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「義勇の方は、実弥や杏寿郎達に任せれば、それなりに結果をだしてくれるだろう。だが、陽華の方といえば、蜜璃はもう小芭内が好きだと知られているし、君しかいないんだよ。」
「そういうことでしたら…、大変不服ですけど、ご協力いたします。」
「ありがとう、しのぶ。」
そう言って静かに微笑むお館様の顔が、しのぶの脳裏に蘇る。
(陽華さん、これはお二人の為なんです。今は少しお辛いでしょうけど、我慢してくださいね?)
しのぶはそう、心のなかで陽華に語りかけた。
二人の会話が終わり、陽華は義勇の元に戻ると、動揺したことを出来るだけ悟られないよう、平静を装って優しく微笑んだ。
「義勇さんは、しのぶちゃんと一緒に行ってください。私は、宇髄さんと行きますから。」
「?……いいのか?」
「はい、お仕事ですから!また今度、一緒に行きましょうね。」
そういった陽華の顔は微笑んでいるのに、どこか無理してるようで儚く見え、義勇は胸騒ぎのようなものを感じた。
「本当に…いいのか?」
「はいっ!!」
「……承知した。」
義勇の返事を確認すると、陽華は静かに義勇に背を向け、天元の元に走り寄った。
その後ろ姿を心配そうに義勇が見つめていると、隣に近づいたしのぶが問いかけてきた。
「陽華さんが心配ですか?」
「わからない。……だが、笑っているのに、泣いてるような気がした。」
その普段あまり見せることのない、義勇の動揺した顔付きに、しのぶは優しく微笑み返した。
「本当に不器用ですね、お二人共。大丈夫です、大人しく付いてきて下されば、後で必ず、会わせて差し上げますよ。」
「…?」
しのぶの言葉の真意は分からないが、今は仕事を優先させるべきだ。そう思い、義勇は先を歩き出したしのぶの後に着いて、屋敷の左の入り口から迷宮内に入場した。
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