第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「しのぶちゃん、どうしたの?」
「陽華さん、……恥ずかしくてずっと黙っていたのですが、実は私、冨お……、義勇さんのことが好きなんです。」
「え!?…うそ、しのぶちゃんがっ!?」
「はい、だから今回は譲って頂けないでしょうか?」
「そんな……、」
初めて聞くしのぶの気持ちに、戸惑いが隠せず、言葉が出ない。
だが、言われてみれば思い当たる節はある。しのぶがいつも、一人でいる義勇をからかったり、嗜めたりと、声を掛けている姿を見たことがあるからだ。
あれは面白がってではなく、好意からくる行動だったのか……、
(まさか、しのぶちゃんもだなんて、……私も言わなくちゃ…義勇さんが好きだって…、友達なんだもの……、きちんと伝えなくちゃ……、)
陽華が言葉を告げようと、口をパクパクさせる。しかしそれは声にならず、陽華は言わんとした言葉を静かに飲み込むと、しのぶに満面の笑顔の向けた。
「……い、いいよ!そう言うことなら、しのぶちゃんが義勇さんと行って、私は宇髄さんと行くから!」
「ありがとうございます!」
しかし、その笑顔の裏に悲しみが見て取れて、しのぶは胸が大きく痛むのを感じた。
(ごめんなさい、陽華さん。これも全て、お館様の台本なんです。)
しのぶの頭に、三日前に耀哉と交わした会話が思い出される。
「え?私が冨岡さんをですか?」
怪訝な表情で、しのぶが耀哉に問いかける。
「あぁ、不服なのはわかる。だが、君にしか頼めないんだ。」
やんわりと耀哉がしのぶに微笑んだ。
三日前の柱合会議の後、別任務=忍者屋敷での作戦を任された天元としのぶは、産屋敷家の座敷で耀哉と対峙していた。
「陽華達に足りない物は、危機感なんだ。」
耀哉の手が優しく、膝の上の鎹鴉の頭を撫でる。
「互いが互いを大切に思う余り、先に踏み込めない。そんな関係が続き、膠着状態が続いている。それを一度、壊さなくちゃいけない。」