第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「事情はわかったが、腑に落ちない事がある。その前にどうにかならなかったのか?もうすでに犠牲者が出てるなら、開店日を延期させるとか……、」
義勇の質問に、天元が不機嫌そうに眉根を寄せた。
「そりゃあ、交渉したさ。だがここの経営者は頑固でな。開店日を遅らせることは出来ないの一点張りなんだよ。勿論、俺らの偵察も、客に不審に思われないように、細心の注意を払えとまで言われてる。」
「犠牲者が出てるのに、最低ですね。」
陽華も嫌悪に顔を歪める。
「でもまぁ、ここの屋敷の権利は経営者にあるからな。しかし奴さん、何の温情だかは知らねーが、優先通行手形だけは渡されから、並ばずに入れるぜ?」
天元がヒラヒラと指の間に挟んだ通行手形を見せると、陽華が「おおっ!」前のめりになる。さっき言っていた[いい物]とは、きっとこれのことだろう。
「つーことで、不本意だが、今回は地味に動くしかねえ。…それでどうだ?頼めるか?」
陽華と義勇は目を合わせ確認し合うと、二人に向かって頷いた。
「そう言うことなら、協力します。」
「助かるぜっ!」
「ありがとうございます!」
天元としのぶは礼を述べると、すぐに目を合わせて合図を送り合う。
「じゃ、さっそくだが……胡蝶?」
「はい。では冨岡さん、宜しくお願いしますね。」
天元の合図に、しのぶが義勇の横にピタッと寄り添う。その行動に陽華が驚いて、目を見開いた。
「えっ!??な、なんでなんで?なんで、しのぶちゃんが義勇さんと行くの!?」
「え?だって、夜に狩りに行くのは私達ですよ?お互いに別々の入口から入って、構造を知っておきませんと……、」
そう言って苦笑いを浮かべるしのぶに、陽華も食い下がる。
「夜の狩りも手伝うよ?だから、義勇さんは私と…(だって、一緒に行かないと愛の鐘が……)、」
手伝う気持ちは勿論あるが、迷宮内には義勇と二人で行かなくちゃ意味がない。先程、漸く決意を固めたというのに。
「陽華さん、ちょっと宜しいですか?」
しのぶに手招きされ、ちょっと離れた所まで連れて行かれた。