第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「せっかく、並んでたのに……、」
窓口まであと少しところで、裏まで連れ出されて、陽華が恨めしい顔で天元を見る。
「まぁ、そう言うなって、後でいいもんやるからよ。」
いい物に反応して、黙り込む陽華の横で義勇が問いかける。
「それで、困ってる事とはなんだ?」
「まー端的に言うとな、ここ出るんだわ。」
天元の親指がクイッと屋敷に向けられる。
「え?この忍者屋敷にですか?……じゃ、今回の任務は…、」
陽華の問いかけに、天元としのぶが同時に頷いた。
二人の話しによると、事の発端は二週間程前のこと。
忍者屋敷の開店に向けて、夜中まで作業に追われていた従業員の一人が、突如姿を消した。
当初、納期に拘り、従業員をこき使う雇い主に愛想を尽かして、逃げたのだろう。と、大きな騒ぎにならなかったらしいが、この日を堺に従業員が次々と姿を消していくようになる。
不審に思った雇い主が警察に通報。何人かの警官が警備に当たったが、全員と連絡が途絶えた。
それをきっかけに、警察から国へ、国から裏の機関を通して、鬼殺隊へと要請が掛けられたようだ。
「十二鬼月なんですか?」
全ての説明を聞き、陽華が真面目な顔で聞き返す。二人が召喚されたのなら、その可能性は大だ。
「まだわかんねー。ただここ三日ほど、調査に出た下の隊員どもが戻ってきてねーんだ。お館様はそう睨んでる。」
そう言って天元の瞳がキラリと光りを帯びる。
「経緯は解りました。ですけど、私達に頼みたいことって、何ですか?」
「それな?俺たちは今日、初めてここに来たんだが、見取り図だけで、まだ実際に中がどうなってるのか確認してねーんだ。だから俺と胡蝶は、鬼が活発になる[夜]までに、屋敷の内情を知っておきたい。」
「ですが、お二人もこの迷路の注意事項を確認したと思いますが、この迷路内は二人一組が原則です。」
「しかも入り口は二つと来てる。」
そこまで、天元としのぶに説明されると、陽華も二人が言わんとしてることを理解出来る。
「て…ことは……、私達にその内見のお手伝いをしろってことですか?」
「ま、そういうこった。」