第12章 進物 後編【冨岡義勇】
「なんか注意事項が、色々と煩いですね?」
長々と書かれた注意事項に思わず突っ込むと、義勇が横から看板を覗き込んできた。
「そうなのか?」
「はい。それと、中には二人一組じゃないと入れないみたいです。ちょうど義勇さんと二人だから、良かったですね。」
そう言って義勇に向けられる屈託ない笑み。その可愛い笑みに、義勇も「そうだな。」と穏やかに返し、二人は仲良く、列の最後尾に並んだ。
並び始めて少しして、売場窓口が見えてくると、陽華がはしゃいだ声を発した。
「義勇さん、見て下さい!売り場の人も忍者さんなんですね?」
「忍者屋敷だからな。」
義勇が至極当然の答えを返す。
「そうなんですけど、細部の演出まで、本当に凝ってるな。って、ここまで凝ってると言うことは、あの人達は本物の忍者さんですかね?」
「いや、流石に演者だろう。忍者はもうほとんど残ってないと聞く。…だが、」
義勇が顎に手をやり、少し考えると答えた。
「宇髄が、元忍者だと言っていたな。」
「そういえば、そうですね。」
そう相槌を打った陽華の顔が、途端に少し曇ったように感じ、義勇は首を傾げた。
「どうした?」
「…私、宇髄さんて、少し苦手です。」
(珍しいな。)
誰に対しても分け隔てなく、優しく接する陽華が初めて人に向ける嫌悪感。義勇は疑問に思い、問いかける。
「何か、あったのか?」
「別に何かされたわけじゃないんです。けど…なんか…その…、宇髄さんて、破廉恥です!」
「破廉…ち?」
義勇の顔が少し戸惑ったように引き攣る。
「はい。……前に一度、合同任務に行くことになって、音柱邸までお迎えに行ったことがあったんです。……けどそこで…、宇髄さん、奥方様一人の…お尻を…触ってて……、」
陽華が恥ずかしそうに俯く。
「そ、そうか。だが…夫婦なんだ、問題ない。」
「そうですけど、二人の時ならいいけど、人前でなんて……、やっぱり破廉恥ですっ!」
ん?二人の時はいいのか?陽華にとっては、人前のすることの方が問題なのか?
陽華の前で、その破廉恥と言われるような行動を取ることはまずないと思うが、万が一は気をつけようと、義勇は心のなかでそう思った。
その時だった。