第11章 進物 中編【冨岡義勇】
その後、無一郎は陽華達にもう一度礼を言うと、案内の隠と共にその場から離れた。
最後の最後まで笑顔で手を振り続け、陽華と義勇の姿が小さくなると、無一郎は真顔に戻り、ふぅ…と軽く息を吐き出した。
(あんだけ煽れば、任務完了でいいよね?)
若干、義勇の反応が薄すぎて、不安にはなる仕上がりではあるが…、
(でもま、後は優秀な先輩方に任せて置けばいっか。さてと…おうちに帰ろ。)
「無一郎くんて、本当に可愛いですよね。」
無一郎を見送った後、陽華が言った言葉に義勇の顔が引き攣る。
「…そうか?今日会った中では一番、脅威に感じたが…、」
「え?」
「…な…なんでもない。」
流石は天才児というべきなのか、爪痕が凄い。数分を共にしただけなのに、今日半日で追った傷跡を、さらに深く、色んな意味で抉られたような気分にさせられたのだが。
焦燥しきった顔で遠くを見る義勇に、陽華が呟く。
「無一郎くんて、なんか似てるんです。」
「ん?」
「出会った頃の義勇さんに…です。」
「っ!?」
義勇が少し驚き、陽華を見る。
「記憶無くしてるからかもしれないですけど、寡黙で無表情な事が多いし、淡々と任務を熟す姿がとかも……、それになんか無遠慮に焚き付けてくる感じ?それも似てます!」
若干、悪口にも聞こえないでもないが、陽華が自分という人間を、そんなにも冷静に見てることに気恥かしさを感じる。
「でも無一郎くん、たまに…不安そうな…辛そうな、そんな目をするんです。やっぱり記憶がないから、きっと私達には理解の出来ない苦しみを抱えているんだと思うんです。」
そう言って伏せた陽華の目は、何処か物悲しそうな雰囲気を持ち合わせていて、義勇はハッとさせられた。
自分は無一郎の剣士としての強い部分しか見ていなかったが、陽華は無一郎の内面の弱い部分までしっかりと見ていたのだと。
「それに…前の義勇さんも、あんな辛そうな目をしてたから…、だからかな?余計に放って置けなくて。」