第11章 進物 中編【冨岡義勇】
自分は陽華の特別ではないと、心に何度も言い聞かせて、この気持ちをずっと奥底に閉じ込めてきたが、今日半日共にいて、陽華を取り巻く環境を知り、焦燥感は募るばかり。
陽華が他の者に笑顔を振り撒く度に、このまま連れ去って閉じ込め、その笑顔も優しさも、全て自分だけの物にしたいと、何度思ったことか。
こんなにもドス黒く野蛮な感情を、尊敬の対象である自分が、持ち合わせているなどと知られれば、陽華のあの純粋な笑顔を失意に曇らせることになる。
それだけは避けねばならない。自分が陽華の笑顔を奪うことなど、あってはならないのだから……、
「義勇さーん、無一郎くーん!」
突然遠くから名前を呼ばれ、義勇はハッとして顔を上げた。
「隠の人、いたよー!!」
向こうの通りで捕まえたらしき隠を連れて、陽華が戻ってきた。
無一郎は戻ってきた陽華に近づくと、その身体に静かに抱きついた。
「どうしたの、無一郎くん?」
「陽華さん、ありがとう。本当は…知らない街に一人で…怖かったんだ。」
「無一郎くん…可愛い…(きゅん)」
無一郎の可愛さに、陽華は思わず無一郎をぎゅっと抱き締めた。陽華の胸に顔を埋める形になり、義勇は思わず「あっ…」と声を上げた。
そんな義勇の姿をチラッと見て、無一郎はペロッと舌を出す。
「くっ、おまえっ…、」
「どうかしましたか、義勇さん?」
不思議そうに問いかける陽華に、まさかこんな年下の子供に嫉妬したとも言えず、義勇は平静を装うと、「なんでもない。」と小さく呟いた。