第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「…あの人…陽華さんて、本当に可愛くて優しい人だよね。」
「………」
「…俺…あの人のこと、好きみたい。」
「!?」
「鬼殺隊に入った当初から、記憶のない俺をことをずっと気に掛けてくれて、優しくしてくれたのが凄く嬉しくてさ…、」
なぜいきなりそんなことを話し始めたのか、真意がわからずに戸惑うが、いつも通りの涼しい顔を崩さぬよう振る舞う。
「なぜ俺に、そんなことを告げてくる?」
「宣言しておこうかなぁって。恩人か何か知らないけど、あの人は今はまだ、貴方に夢中みたいだからね。」
無一郎が小さく肩をすくめる。
「でも…後二、三年もすれば、俺は貴方よりも確実に強くなるし、顔だって、負けないくらい男前になると思う。……そしたら陽華さん、貴方から奪うよ?」
「っ!?」
驚く義勇に、無一郎がようやく視線を合わせる。しかしその顔は清々しいほどに、自信に満ち溢れた笑みを称えていた。
先程の敵意はこれだったのかと、今改めて思い知る。義勇は軽く動揺してしまった心を押し隠すと、無一郎に言った。
「そんなことを、俺に言っても仕方がない。最終的に決めるのは陽華だ。」
そう言った涼しい顔とは裏腹に、心の中はザワついていた。相手は子供とは言え、数百年に一度の天才児。確かにあと数年もすれば、自分みたいな凡人はすぐに超えていくだろう。顔だってもうすでにその片鱗を見せている。到底、太刀打ち出来そうな相手じゃないことは確かだ。
そんなことを思って黙っていたのだが、無一郎には無反応に見えただろう。小さく「ちぇっ」と舌を打たれた。
「なんだ、案外ツマラナイ人なんだね。でもいつまでその余裕に満ちた、置物みたいな顔でしていられるのかな?」
「(こんな年下の子供に、ツマラナイって言われた……)俺は表情筋が死んでるだけで、元からこんな顔だ。別に余裕があるわけじゃない。」
そうだ、余裕なんてあるわけがなかった。
今日だって、陽華の周りで何かが起こるたび、焦って、みっともなく藻掻いて…、どれだけ心を乱されたことか……