第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「僕が迷子になってるって言ったら、お茶をご馳走してくれたんだ。」
「えーー、めっちゃいい人っ!!」
今日初めて見掛けた虚無僧だが、見掛けすぎて親近感を覚え始めていた。しかしそこに義勇が水を差す。
「だが、時透に声を掛けた事を考えると、稚児趣味の変質者の可能性も捨てきれない。用心したほうがいい。」
義勇にそう言われると、そんな気もしてくる。
「そうですね。無一郎くん、もう知らない人にはついていっちゃ駄目だよ?」
「うん、わかった。」
陽華が心配してくれた事が嬉しかったのか、無一郎は微笑んで頷くと、陽華も優しく微笑み返す。そんな二人を見ていると、無一郎に何事もなくて良かったと、義勇は思った。
「時透、無事で良かったな。」
義勇がそう声を掛けると、無一郎がチラリと義勇と視線を合わせた。
「ありがとうございます。」
(ん?何だ…今……、)
礼を述べた無一郎の視線に、なぜか敵意のようなものを感じて、義勇が一瞬たじろぐ。だが無一郎すぐに陽華に視線を戻すと、優しい笑みを浮かべた。
霞柱・時透無一郎。鬼殺隊に入って二ヶ月という異例の速さで柱になった天才児。義勇は自分とはあまりにも掛け離れた存在に一目置いていた。
だが、陽華と喋っているところを見ると、そんな剣士にも無邪気な子供のような一面もあるんだと、ほっこりしていた時に向けられた敵意。義勇は胸がザワつくのを感じていた。
そんな義勇の横で、陽華がキョロキョロと辺りを見回す。
「隠の人、どこ行っちゃったんだろね?義勇さん、私もう一つ隣の通りを見てきますね?」
「あぁ、わかった。気をつけろ。」
陽華がコクリと頷いて返し、隣の通りに向かって走り出すと、義勇は無一郎と二人きりになった。
あまり会話もしたことのない相手な上に、さっき感じた敵意。どう接すればいいのか、そう思い倦ねいていると、先に口を開いたの無一郎の方だった。
「貴方、冨岡さん…でしたっけ?」
「ん?」
いきなり声を掛けられ、先程のこともあり、警戒しながらも無一郎に視線を向ける。が、無一郎はこちらを向こうともせずに、陽華の背中に視線を向けたまま、言葉を続けた。