第11章 進物 中編【冨岡義勇】
陽華が張り切って進行方向を指差す。すると少し先の、茶屋の店先にある長椅子に、あの虚無僧が座っているのに気がついた。
(あ、虚無僧さんだっ!……ずっと立ってて疲れたのかな、休憩してるみたい。)
虚無僧さんも人間だものね。そんなこと考えながら虚無僧を見ていると、その隣の席に一人の少年が座っていることに気づいた。陽華はその少年を見た瞬間、大きく「あっ!」と声を上げた。
「義勇さんっ!あんなところに無一郎君がいます。」
「むい…?……時透か。」
「なんで、こんなところに?私、声掛けてきますっ!」
駆け出した陽華の姿を見ながら、義勇はふと不安に駆られた。なぜこんなにも、この街に隊員が集まっているのか、しかも柱という上位に近い面子ばかりだ。
義勇は考える。
(果たして、日本の平和は守られているのだろうか?)
唯一の救いと言えば、柱の中でも頭的な存在の岩柱・悲鳴縞行冥の姿は、まだ見られていないこと…か?
一方、無一郎と虚無僧に近づいた陽華は、気づかれる範囲まで来ると大きく手を降った。
「無一郎くーん!」
無一郎が声に気づいて、こちらを向く。そしてそれが陽華だと気づくと立ち上がって、虚無僧にペコリとお辞儀して、こちらの方に小走りに近づいてきた。
「陽華さん。良かった、知り合いに会えて。」
「無一郎くん、こんなところで何してるの?」
一緒に義勇の元に戻ると、聞いてみる。
「次の任務に行く途中だったんだけど、案内の隠の人とはぐれちゃって…、」
無一郎が不安そうに顔を曇らせたのを見ると、陽華は心配そうに顔を覗き込んだ。
「そうなんだ、それは不安だったね。ねぇ、ところで無一郎くん、あの虚無僧さんとは知り合いなの?」
陽華が視線を虚無僧に向けると、無一郎も振り返って見る。しかしすぐに陽華に向き直ると、首を振った。
「ううん、全然知らない人。」