第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「陽華、本当にここに入りたいのか?」
可愛い洋風の店構えの甘味処の前で、義勇は少し引いた様子で陽華に問いかけた。
「はいっ!蜜璃ちゃんに教えて貰ったんです。最近出来たっていう若い子に人気のぱーらー?とか言う甘味処みたいで、行ってみたかったんです♪」
大の大人の男が、こんな乙女全開な店に入るのはどうかと思うが、陽華のキラキラした顔を見てると、そんなことは言えない。
(そうだ、今日は陽華に尽くすと決めた。)
義勇は覚悟を決めると、コクリと頷いた。
「承知した。お前が入ってみたいと言うのなら、付き合おう。」
義勇は勇気を振り絞り、店の扉の取手に手を掛けゆっくりと開けた。すると次の瞬間、店の中から……、
「うまいっ!!」
と、店中に響くような大声が聞こえた。さらにその掛け声に相づちを打つように答える、女子の声。
「ほんとっ、おいしいわぁ!!」
その聞き馴染みのある声に義勇が一瞬『帰ろうかな?』と、固まっていると、声の主に気づいた陽華が義勇の後ろから抜け出て、店の中に入った。
「煉獄さん、蜜璃ちゃんっ!」
席に駆けつけ、見知った顔に声を掛ける。
「あら、陽華ちゃん♪」
「氷渡と冨岡かっ!?なぜここにいるっ!」
率直に聞いてくる杏寿郎に、『それは俺が聞きたい』と思った義勇だったが、もうここに来るまでに何人もの隊士に会ってきて、言う気力もとうに薄れていた。
「やだ、煉獄さんっ!若い男女が二人でこんな場所に来てるのよ。理由を聞くなんて、野暮だわぁ♪」
蜜璃は恥ずかしそうに両手で顔を抑えると、ポッと頬を赤く染めた。
(……それはお前たちにも言えるだろ。)
義勇は心の中でまたもや、ぼそっと呟いていると、杏寿郎は陽華達二人を交互に見て、カッと目を見開いた。
「なるほど、逢瀬か!?」
杏寿郎の包み隠さないはっきりとした物言いに、今度は陽華の顔が赤く染まった。