第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「ははっ、わりー。なんか思い出しちまってな。」
実弥はポンポンと陽華の頭を軽く叩くと、小間物屋の亭主に顔を向けた。
「おい、おっちゃん。コレ一つくれ。」
実弥はそう言うと、持っていた簪を掲げた。店の亭主の言い値を支払い、買った簪をそのまま陽華の髪にスッと挿し込む。
「ふぇ??不死川さん、これっ…、」
「やるよ。今日の格好に似合ってるじゃねェか?」
「でも…こんな……頂けませんっ!」
慌てる陽華に、実弥は見たこともないほどに優しく微笑んだ。
「懐かしいもん、思い出させて貰った礼だァ。それに今日、誕生日なんだろ?」
「なんで知ってるんですか?」
「まぁ…たまたまだァ。だから、黙って受け取れェ。じゃあな?」
そう言って、片手を上げ軽く振りながら、実弥は去っていった。その姿に義勇の顔がかすかに引き攣る。
(不死川…、なんて粋な男なんだ。あんなにさり気なく女性に贈り物がするなんて、やはり俺とは違うと言うことか。)
こんな男気を見せられたら、先程の自分のした行いなど、泡沫のように霞んでしまう。それどころか、陽華の心が実弥に靡いてしまうのでないか?不安駆られ、陽華の顔色を伺う。
すると案の定、陽華は顔をほわほわさせて、実弥の後ろ姿を見つめていた。
「はぁぁ…、今日の不死川さん、なんか格好良かったですね?」
「なっ!?」
ほんのりと顔を赤らめた陽華に、義勇は目眩を感じてふらつき、近くにあった電信柱に寄りかかった。
「義勇さん、どうしたんですか?お腹でも空きましたか?ほら、甘味処はもうすぐです、行きましょ?」
そう笑顔で言った陽華に支えられ、義勇は人々の行き交う通りを、落ちた気持ちでトボトボと歩き出した。