第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「あっ!!義勇さん、大変ですっ!!」
甘味処に向けて、町家の通りを歩いていた陽華が何かを発見して、義勇の手を素早く握ると、そのまま物陰へと引き込む。
「どうした?」
固く握られた手を気にしながら、義勇が問いかける。
「あれ見てください、不死川さんです!」
促されて陽華の視線の先に目をやると、小間物屋の店先で商品を見ている実弥の姿が見えた。
「なぜアイツがこんなところに……、」
「それよりも見てください、不死川さんの顔っ!あんなに穏やかで優しいお顔、初めて見ます。」
確かに普段は絶対見せることのない穏やかな表情を浮かべている。陽華は物陰から身を乗り出すように、まじまじと実弥の様子を観察した。そして手に持った簪に気づくと、確信したように頷いた。
「間違いありません。あれは彼女さんへの贈り物です!!」
「そうなのか?」
いささか早計過ぎる気はするが、今しがた小芭内を手懐けた手腕は、流石だった。
「私、手伝ってきます!」
よくわからない使命に駆られて陽華が立ち上がるが、実弥は小芭内より手強そうな気がする。そして何よりも、早計過ぎる陽華は危険な時がある。
「待て、陽華!」
慌てて止める義勇の声も聞こえずに、小走りに走り出した陽華の後を、急いで義勇も追いかけた。
「不死川さんっ!!」
「うぁっ、なんだ!!いきなり現れんなァ!!」
いきなり現れた、本日の標的の人物に動揺し、実弥は持ってた簪を落としかける。
「不死川さん、ずばり!その手に持った簪は、彼女さんへの贈り物ですね!?」
「アァ?何言ってんだァ?ちげ…、」
「物陰から拝見させて頂きました!いつもの不死川さんには見られない、穏やかな顔をしてました!」
「いや…何、勝手に盗み見てんだよ。」
「あれは間違いなく、恋する者の目でした!!」
「おい…、聞けよ…人の話。」
まったく人の話しを聞こうとしない陽華が、ワクワクとした瞳で実弥を覗き込む。