第11章 進物 中編【冨岡義勇】
一方その頃、小芭内と離れ離れになってしまった不死川実弥は、町家などが立ち並ぶ通りを歩いていた。
その危険なほど不機嫌な顔に、通り過ぎる人々も道を開けていく。
(ったく、なんで俺がこんなこと。伊黒も何処行っちまったのかわかんねェしよォ。)
問屋街辺りで一緒に来た小芭内が「買いたい物がある」と、一人で何処かに行ったきり、行方が知れない。
このまま帰ってしまうか?と、一瞬考える。だが、次の柱合会議でどんな恐ろしい目に合うかわからない。
実弥は大きくため息を吐き出すとチラッと辺りを見渡した。すると近くの小間物屋の店先に、母親に縋り付いて泣いてる女児がいるのが目に入った。
どうやら、目的のものを買ってもらえなかったようだ。泣き叫びながら母親に引き摺られていく姿を見ながら、一番下の妹も生きてりゃあれくらいか?などと思い、少し同情して、苦笑いを浮かべる。
実弥はそのまま、親子が去っていった小間物屋の店先へと吸寄せられるように近づいた。店頭には女物の装飾品や化粧品に日用品などの雑貨が並べられている。
それらの品物を実弥は目を細めて見渡す。そういえば妹達も、さっきの女児のように泣き叫んだりはしなかったが、買い物に連れて行ってやると、こんなキラキラした雑貨を物欲しそうに見てた。
(あの頃はアイツらになんも買ってやれなかったけど、今だったら好きなもん、いくらでも買ってやれんのになァ。)
そんなこと思いながら、若い娘向けの装飾の施された簪を、一つ手に取る。
(これなんか、寿美に似合いそうだな。アイツはお袋に似て、可愛いらしい顔立ちしてっかんなァ。)
生きていれば、おしゃれにも敏感な年頃になっていたはずだ。自分に屈託なく笑いかける一番上の妹の笑顔を思い出しては、不死川実弥は軽く微笑んだ。