第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「義勇さん、私これがいいです!!」
後ろから声が聞こえて、また言わんとしたことを遮られたと怨めしそうに振り向くと、陽華が手に持った商品を義勇に前に差し出した。
それは帯の上部に差し込んで、胸元を華やかに彩る為の帯飾りだった。
緑黃臙脂の細やかなつまみ細工の花々が艶やかに彩られ、枝垂桜のように垂れ下がったさがりが歩く度にゆらゆらと揺れる仕様になっている。そして最上部には深く澄んだ紺碧の蜻蛉玉があしらわれていた。
それを見た義勇が少し驚いた顔を見せた。
「さっきのより安いが、いいのか?」
「はい、これがいいです。一目惚れしちゃいました!」
確かに先程の物よりは陽華に合っている気がする。義勇は陽華がにっこりと微笑んだの確認すると、「承知した。」と、それを受け取った。
会計を済ませてくると言った義勇を、陽華が店の外で待つ。まさか義勇から、誕生日に贈り物を頂ける日が来るとは思わなかった。嬉しさで顔が緩んで仕方がない。
ウキウキ気分で眼の前の通りを見渡すと、またあの虚無僧風の大男が二・三軒先の店前に立っているのを見えた。
今度は尺八を吹いておらず、静かに通りに佇んでいた。
(下手くそだったから、周りの人から苦情が入ったのかな?……新人さんなのに、可哀想。)
その哀愁漂う佇まいに勝手に妄想して、勝手に同情していると、通りでチラシらしき紙を配っていた真ん中分けの青年が陽華に近づいてきた。
「宜しくお願いしまーす。」
そう言って、青年が陽華にチラシを渡してくる。
陽華はそのチラシを受け取るとその青年の顔を見た。その瞬間、そのチラシ配りの青年はドキッと身体を震わせて顔をそむける。
ん?と感じた陽華は、その人物の前に回り込むとその顔を覗き込んだ。
「あれ?……もしかして、村田さんですか?」
「いや…、人違っ……、」
「あーーー!やっぱり、村田さんだぁ!?こんな所で何してるんですか?」
それは先輩隊士の村田だった。