第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「何って…仕事……、」
そう言って言葉を濁す村田に陽華が首を傾げる。
仕事?仕事って、チラシ配りが?……鬼殺隊に鬼殺以外の仕事があるのだろうか?
きょとんとする陽華を、村田は苦虫を噛み潰したような顔で見つめる。
(くそ〜、知り合いだから無理だって言ったのに……、)
なんでかは知らないが、一昨日村田の元に通達が来た。内容は変装してこの街で指定のチラシを配り、陽華達に渡せだった。
そして今朝、この街に着いて指定のチラシを渡してきた隠に、知り合いだから無理だって言ったのに、村田のような平凡顔は何処にでもいるから、大丈夫だと押し切られた(失礼すぎじゃないか?)。
そんな村田を他所に、一つの答えを導き出した陽華が「あっ!?」と大声を上げて村田を見た。
「まさか…これって……副…」
(副業?……村田さん、鬼殺隊のお仕事だけじゃ、お給金足りないのかな?村田さんの階級なんだっけ?庚?己?)
困惑した顔で、さらに考え出す陽華に、嫌な予感がし始めた村田の顔が引き攣りだす。
(そうだよね、村田さんももういい大人だし、庚の給金じゃやっていけないよね。………確か義勇さんと同期だったっけ?後輩もたくさんいるだろうし、ご飯奢ったりとか……、やっぱりお金足りてないんだっ!!)
そう確信した陽華は村田の境遇に少しだけ瞳を潤ませると、顔を見つめながら村田のチラシを持っていない方の手を両手で優しく握り締めた。
「村田先輩っ、私コノコト……誰にも言いませんからっ!!」
「お前絶対に、何か勘違いしてるだろぉ〜っ!」
涙目で訴える村田に気を使うように陽華がキョロキョロと周りの様子を伺う。
「そろそろ義勇さんが来ます!バレない内に行ってください。」
「だからっ……、」
そこまで言って押し黙る。
ここで誤解を解いて置きたいが村田も馬鹿ではない。ここに義勇が加われば、天然が二人になってしまう。さらなる炎上は免れない。
村田は涙を流しながら唇を噛みしめると、「済まないっ!」とその場から逃げていった。