第11章 進物 中編【冨岡義勇】
そんなことを思いながら簪を見つめていると、義勇が後ろから陽華の手元を覗き込んできた。
「それ…気に入ったのか?」
「はい、素敵だなぁって…、」
「…なら、買ってやる。」
思っていたよりも自然に言えた自分に、義勇は静かに拳を握りしめる。その横で陽華は大きく首を振った。
「い、いいですよっ!こんな高いもの、買って貰う理由がありませんっ!」
一生懸命遠慮する陽華に、義勇は少し、決まりの悪そうな顔を滲ませた。
「今日はその……誕生日だと、…聞いた。」
「え?な、なんで知ってるんですか??」
「さっき、妙さんから教えて貰った。」
「あ…、」
失敗した。妙さんに口止めしておくのを忘れていた。
「それと…もう一つ聞いた。お前が毎年ご馳走してくれる…鮭大根の意味も。」
「やだ…妙さんたら……、あれは…その…お世話になってるのは事実だし…、だから、本当にお礼の意味で…、」
「今まで気づいてやれずに、すまなかった。」
そう言って、すまなそうに顔を伏せる義勇に陽華が慌てる。
「い、いいんですっ!…あれは本当に、ただの自己満足で……、」
「それなら、俺もただの自己満足でいい。今まで、お前の誕生日を祝えなかった分、お返しくらいさせろ。」
その言葉に、今度は陽華が顔を俯かせる。気恥ずさと気を使わせてしまった申し訳無さ、色んな感情がごっちゃになって、上手く言葉に出来ない。
でもそれより何よりも、涙が出そうなくらい嬉しかった。
「あ、ありがとうございます。…でも、こんな高価な物買ってもらっちゃったら、来年の鮭大根は豪勢にしなくちゃ、駄目ですね?」
少し照れたように、それでいて心から嬉しそうに陽華が微笑み掛けると、義勇はその余りの可愛さに耐えきれず、少しだけ視線を反らした。
「陽華、そういうことなら……少しだけ我儘を言っていいか?その…、来年の俺の誕生日は…久しぶりにお前の作った……「あーーーー!!」
急に大声を上げた陽華に驚いて視線を戻すと、陽華は隣にいなかった。