第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「伊黒さん、ありがとうございます。大切にしますね!」
本当に嬉しそうに微笑む陽華につられて、小芭内の目も優しく緩む。
そんな一連のやり取りを、義勇は何も言えずにただ愕然とした表情で見ていた。
まさか、伊黒に先を越されるとは思ってもいなかった。しかもあんなに自然に……、あまりにも自然過ぎて、嫉妬すら感じる始末。
(やはり、正当な理由で柱まで上り詰めた男は、俺なんかとは違う。)
こんな感情を抱くなど、その資格さえないと言うのに。しかし義勇の中で燻りだしたこの黒い感情は、徐々に広がりを見せ始めていた。
意図せずに、義勇に嫉妬心を抱かすことに成功した小芭内は、包まれた贈り物を胸に大切に抱え、ほくほく顔で店から出ていった。それを見送った後、陽華は妙への贈り物探しを再開させた。
「目星は付いているのか?」
義勇の問いかけに陽華が頷いた。
「やっぱり簪にしようと思います。」
そう言って暫くの間、簪売り場を物色したのち、陽華は銀杏型の上品な鼈甲の簪を手に取った。
「これにします。妙さんの雰囲気ともぴったりです。」
「結構、値が張るな。」
「はい。でも、妙さんには本当の母親みたいにお世話になってますし、これでも足りないくらいです。」
そういって可愛く微笑む陽華に義勇の顔も自然と綻ぶ。
「喜んでくれるといいな。」
「はいっ!」
簪を包んで貰っているうちに、陽華は店内を見て回った。
鬼殺隊にいるかぎり、おしゃれをする時間は限られている。それでもやはり、見ているだけで心がワクワクとしてくるのは変わらない。
「わぁ、これ素敵!」
銀色の細かな花細工のあしらわれた簪を手に取り、陽華は瞳を輝かせた。自分には少し大人っぽいだろうか?でもいつか、こんなのが似合う女性になりたい。
その時、自分の隣には義勇がいてくれたら、どんなに幸せだろうか?などと想像して、顔をほにゃっと緩ませる。
(なんてね。……誕生日だし、お仕事も頑張ってると思うから、自分でご褒美に買っちゃおうかな?)