第11章 進物 中編【冨岡義勇】
耀哉から言い渡された計画では、実弥と二人で偶然装って近づき、陽華を口説いて義勇に嫉妬させるという無茶ブリな指示だったのだが……、
(甘露寺に贈り物をするのに良さげな店を見つけて、フラフラと入ってきてしまった。)
苦虫を噛み潰したような顔で陽華を見ていると、その後ろから義勇が顔を出す。
「伊黒、なぜここにいる?」
義勇の問いかけに、小芭内は心の中で軽く舌打ちをすると二人を交互に見た。出会ってしまったなら仕方がない。適当に見繕って、辻褄を合わせなければ。
「俺は偶然にこの街に来て、偶然ここで買い物していただけだ。」
苦し紛れにとりあえず適当な理由を述べて見る。しかし義勇は不思議そうに首を捻った。
「ここは女用の装飾品を扱う店だ。……まさか伊黒、お前にそんな趣味が……、」
「馬鹿か、そんなわけがないだろう!」
義勇の的外れの言葉に小芭内が切れる。
「あっ、もしかしてっ!?」
突然陽華が何かを思いついたように顔をワクワクとさせ、小芭内の顔を覗き込んだ。
「伊黒さん、蜜璃ちゃんに贈り物ですか?」
「いや、ちがっ…、」
慌てて否定してみるが、陽華は目はすでにワクワクとした乙女のそれに変わっていた。
「伊黒さん、素敵です!!私、お手伝いします!大切なお友達の蜜璃ちゃんの為ですから!」
陽華と恋柱・甘露寺蜜璃は同い年ということもあって、休みの日に買い物に行ったりご飯を食べたりとかなり仲がいい。当然、小芭内との事も色々と話しに聞いている。
「か、勘違いをするな!違うと言っている!それにお前の手など借りなくとも……、」
そう言って背を向ける小芭内の背中に、陽華が声を掛ける。
「でも蜜璃ちゃんに贈り物なら、簪じゃないほうがいいです。」
その言葉に小芭内の身体がピクリと反応する。