第11章 進物 中編【冨岡義勇】
それからほどなくして、問屋街の目的の店に着いた陽華達は店内へと入った。
店内には簪や櫛などの和物や、洋物の首飾りや指輪などの装飾品が見本のように並べられていて、陽華は思わず「はあぁ…素敵♡」と、感嘆のため息を漏らした。
「こういうのが好きなのか?」
「はい。やっぱり女子なので、見てるだけでワクワクしちゃいます。」
いつも以上に目をキラキラさせて周りを見渡す陽華を見て、なるほど、女というものはそういうものか。と義勇が納得したように頷く。
そういえば姉の蔦子も、婚約者から贈られた装飾品などを嬉しそうに身に着けていたことを思い出す。
陽華にも贈れば、喜んでくれるのだろうか?そんなことが義勇の頭を過り、ちらりと視線をやる。すると陽華はちょうど、見知った店員に挨拶をしているところだった。
どうやら店主は買付に行っていて今日はいないらしい。だが店主に言われているから、お安くします。と言われ、喜んでいた。
「さてと…妙さんには、何がいいかな?」
陽華は店内をゆっくり歩きながら、商品を物色していく。繊細な細工の施された櫛や手鏡、絹で織られたリボンなどの高級品が目につく。やがて簪の並べられた場所に来ると、じっくりと品定めするように商品を見ていった。
(妙さん、いつも着物姿だからな。簪がいいかも。)
そして、良さげな簪を見つけるとそれを取ろうと手を伸ばした。すると同時に手を伸ばした誰かの手とぶつかる。
「あ、ごめんなさい!」
「いや、こちらこそ。」
反射的にお互い謝り、相手の顔を見る。そしてその見知った顔に陽華は驚いて目を見開いた。
「へ?伊黒さん??」
「氷渡っ!」
そこにいたのは、蛇柱の伊黒小芭内だった。小芭内も驚いた顔で陽華を見る。しかしそれは、陽華とは別の意味での驚きだった。
(しまった!予定の場所とは全然違う場所で、こいつらと遭遇してしまった!)
小芭内の顔に焦りの色が滲む。