第11章 進物 中編【冨岡義勇】
炭治郎達と別れた陽華達は第一の目的地、問屋街の方へと足を勧めた。
「それで、何を買う予定なんだ?」
「いつもお世話になってる妙さんに何か贈り物したいなって、ずっと思ってたんです。今日もすごくお世話になっちゃったし、だからそれを。」
「そうか。」
自分の誕生日なのに人への贈り物を考えるとは、実に陽華らしい…と呆れる反面、微笑ましい気持ちになる。
「問屋街に女性物の装飾品や宝飾を扱ってる卸問屋があるんです。個人向けの販売もしてて、高価な物でも普通に買うよりも安く手に入るんですよ。」
「ほう。」と義勇が相槌を打つ。
「そこの主人のお爺ちゃんとは茶飲み友達なんです。」
その店は陽華も普段から良く通う場所だった。問屋街は流通業者の出入りも激しく、情報の宝庫だ。特にここの店の主人は、問屋街では頭的存在で裏の情報に詳しい。前任の柱からも仲良くしておいて損はないと言われ、着任早々一番に挨拶をしに行った。
しかし、挨拶の場でいきなり屈強な大男二人に囲まれて、女子の平均的な身長の陽華は埋もれ掛けた。が、簡単にのしたら甚く気に入られ、今では茶飲み友達となっている。
「それで…さらに安くしてやるから、いつでも買いに来いって言ってくれてて…、」
「そうか、いいのがあるといいな。」
「はいっ!」
義勇とそんな会話をしながら、陽華は広い通りを一望した。すると通りの奥の方に、またあの虚無僧風の大男が立っているのが見えた。
街の入口付近にいた時は黙って立っていただけだが、今は尺八を吹いてる。
近づくと音色まで聞こえて来たのだが、そのなんと言うか……、
(うあぁ、下手くそ……、)
音階になってないどころか、所々ですぴーという、空気の抜ける音だけでまず鳴らせてない。
(……新人さんなのかな?)
見た目の貫禄はたっぷりなのだが、尺八の方はたまに不快な高音を発していて、苦情が出そうな勢いだ。そんなことを思って前を通り過ぎたが、通り過ぎたらまた興味を無くした。