第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「ちょっとやめてっ!義勇さんは物を食べてる時はしゃべれないの!」
「なんだよそれ、小学生かっ!……たくっ、これだからボンボンの末っ子長男はっ!」
「善逸っ、失礼だろ!!」
吐き捨てるように嫌味を言う善逸を炭治郎が嗜める。
義勇はそのやり取りを見つめながら、口の中の物をゴクンと飲み込むと善逸にこういった。
「我妻、俺はもう成人している。」
「ンなもん、見りゃわかるわっ!」
盛大に善逸が突っ込んだ瞬間、
ガンッ!
陽華の方から飛んできた湯呑が善逸の頬にめり込み、善逸はその場にもう一度崩れ落ちた。
「義勇さん、すみませんっ!私の弟弟子が無礼な態度を取って。」
支払いを済ませ、定食屋の外に出ると、陽華が義勇に頭を下げた。
「……無礼…だったのか?」
きゅん♡
あんな失礼な態度だったのに、気にしてない風を装うなんて、なんて心が広く優しい人なのかしら。と陽華の胸がときめく。
(やっぱり、義勇さんて素敵な人だわ!!)
目をキラキラさせて、義勇の顔を見つめる陽華を見て、店側から頂いた氷袋を頬に当てた善逸が炭治郎に耳打ちした。
「あの二人、本当にお似合いだよな。なんていうか…感性がズレてる。」
「そ、そうだな。」
炭治郎が苦笑いで返す。
その後、陽華は食事代を弟弟子の分まで払ってくれたことにも感謝し、炭治郎達にも頭を下げさせると、そのまま二人に別れを告げて義勇と問屋街に向けて歩き出した。
その去っていく義勇と陽華の後ろ姿を見て、炭治郎が呟く。
「……というか、善逸。俺は責務を全う出来たのだろうか?なんか、善逸と陽華さんの漫才のせいで、有耶無耶になってしまった気がする。」
「うーん。でも、仄めかしには成功してるし、後で行ってみるって言ってたじゃん?それに炭治郎以外にも、街には優秀な隊員がウロチョロしてるんだろ?後は任せればいいんじゃない?」
楽観的に答える善逸を横目に、「そうだな。」と返し、炭治郎は二人の後ろ姿に再度視線を送ると、
(お二人とも、今日は楽しんでくださいね?)
と、心の中で静かに呟いた。
ちなみに炭治郎が蹴られ損だったと気づくのは、さらに数カ月後のことである。