第11章 進物 中編【冨岡義勇】
食べ始めて暫くすると、義勇の口の周りの異変に気づいた陽華がおしぼりを片手に義勇に声をかける。
「義勇さん、口の周りに付いてますよ?」
陽華がおしぼりを口元に近づけると、義勇は「あぁ、済まない。」と呟き、顔を陽華の方に向けた。そうすると、陽華が優しく義勇のお弁当を拭き取る。
「はい、もう大丈夫です。」
「あぁ、ありがとう。」
その一連の行動を、机に方杖をつきながら見ていた善逸がボソッっと問いかける。
「ねぇ、来たときからずっと二人を見てたんだけどさ。陽華さんと冨岡さんて、長年連れ添った夫婦みたいだよね。」
「や、やだっ!何を言ってるのよっ!!」
一瞬で陽華の顔が真っ赤に染まる。「これは…前からの癖で…、」と、もごもご話す陽華を見て、義勇も焦る。
(しまった。俺が不甲斐ないばかりに、陽華に対して在らぬ疑いを掛けさせてしまった。)
義勇は慌てて口の中の物を飲み込み、善逸の顔を見た。
「勘違いをするな、我妻。陽華は面倒見がいいから、未熟な俺の補佐をしてくれているだけだ。」
はっきりと否定する義勇に、陽華の胸がチクリと痛む。
(義勇さん、そんなにはっきりと否定しなくても…。)
チラッと義勇の顔を見て、しゅんする陽華には気付かずに、誤解を解いてホッとした義勇は、また鮭大根を口に運ぶ。そんな義勇に善逸が噛み付く。
「あぁ、そうですかっ!顔がいいと得ですね。黙って座ってるだけで、こんなに可愛い子が甲斐甲斐しくお世話してくれるんだからっ!」
イケメンに対して何かと厳しい善逸が嫌味を言うと、義勇は善逸の顔をじーっと見つめたまま、口をモグモグさせた。
「ねぇ、ちょっと聞いてます??」
何も言わない義勇に善逸が問いかけると、見かねた陽華が善逸を止める。