第11章 進物 中編【冨岡義勇】
「ん、そんなのあったかなぁ?一週間くらい前に通った時は見なかったんだけど……。」
一週間前の状況を思い出し、不思議そうに首を捻る陽華に、炭治郎は「そりゃそうだ。」と密かに突っ込んだ。
陽華の言うとおり、一週間前はその場所は更地で何もなかったはずなのだ。それを産屋敷家の財力で呼び寄せた豊富な人材と資材を存分に使い、急速に作り上げた仮初の施設なのだから。
(お館様、どこまでも本気が過ぎるな。)
お遊びにも一切の妥協を許さないお館様に、感服しつつも苦笑いが拭えない。
そんな理由だから、陽華が納得するような解答を炭治郎達が持ち合わせてるはずがなく、当たり障りのない言葉で返す。
「確か、本日開店って、書いてありましたよ。工事中で見逃したんじゃないですか?」
炭治郎の言葉に、それでも納得できないといった感じで「うーん。」と陽華が唸る。そこにすかさず善逸が援護するよう割って入る。
「陽華さん、しっかりしてるようで抜けてるとこあるからね。やっぱり見逃したんじゃない?」
「何よ、失礼ねっ!」
善逸ごときに抜けてるなどと言われるとは、なんか屈辱的な気分になる。陽華は心外とばかりに鼻を膨らませると善逸を睨みつける。それを「まぁまぁ…」と炭治郎が宥める。
「気になるなら、後で寄ってみるか?」
見兼ねた義勇が問いかけると、陽華はパッと顔を明るくして、「いいんですか?」と、恋する乙女の顔で義勇を見つめた。
「あぁ。」と義勇が頷くと、陽華がニコニコと笑顔を浮かべる。それをみていた善逸が、
「……俺たちと、全然態度が違うんだけど。」
ポツリと小さく呟くと、当たり前でしょ?とばかりに陽華に睨まれる。
「それよりも、善逸!会ったら言おうと思ってたんだけど、師匠が怒ってたよ?全然連絡寄越さないって。」
この場合の師は桑島治五郎の事である。師が二人いる陽華は、鱗滝を先生、桑島を師匠と分けて読んでいるのだ。
善逸は陽華の言葉に面倒くさそうな顔を浮かべた。