第10章 進物 前編【冨岡義勇】
街への道すがら、義勇が陽華に問い掛ける。
「それで街に出て、何がしたいんだ?」
「うーん、したいこと一杯あります。一緒にお食事して、お買い物して、甘い物も食べたいし…お芝居も観たいし、…あっ!活動写真ていうのも観たいかもっ!」
「なんか、忙しそうだな。」
「はいっ、忙しいですっ!なんと言っても、義勇さんと一日中一緒にいられるなんて、今日しかありませんからね!」
そう鼻息も荒く意気込む陽華を見て、義勇が小さく吹き出した。
「お前は…いつも元気だな。」
「そうですか?でも今日は義勇さんと一緒だからかな?気分は上がってます。」
陽華は義勇に向かって、ニコッと微笑んだ。義勇は顔が赤くなるのを感じて、軽く目を反らすと呆れたように軽く息をついた。
「……お前はまた…そんなことを言って……、」
……俺の心を期待させる。
そう言いかけて、口を閉ざす。その代わりに一つ咳払いをすると、言いにくそうに言葉を続けた。
「別に…お前が望むなら、食事の1つや2つ、時間が合えば…いつだって俺は……、」
駆けつける……、そう言おうとして、義勇は様子を伺うように隣を歩く陽華に視線を移した。が、しかしそこに陽華の姿はなかった。
義勇が驚いて顔をキョロキョロさせると、陽華は遥か先にいて、義勇に向かって手を降っていた。
「ぎゆうさーーん!!時間がないんで、急いでください!」
「……お前な」
義勇は項垂れるように呟くと、小走りに陽華に近づいていった。
「そんなにはしゃぐと転ぶぞ?」
「そんな子供じゃありません!」
そう言って、プクッと頬を膨らませる陽華に優しく微笑み返すと、義勇と陽華は街の中へと入っていった。
ー 進物 前編 完