第10章 進物 前編【冨岡義勇】
陽華は嬉しさに顔を緩ませて微笑むと、義勇に気づかせるように帯を指さした。
「それと見てください、ここ。義勇さんとお揃いにしたんです!」
「お揃い?」
促されて、義勇が帯に視線を移す。すると帯には、赤地に錦糸の糸で織られた亀甲模様が不規則に描かれていた。
その「嬉しいですか?」とでも言いたげに、期待するように軽くドヤった顔をする陽華に、義勇は吹き出しそうになるのを堪えると、軽く頷いた。
「あぁ、確かにお揃いだな。……しかし、お前がそんな格好をするなら、俺もそれなりの格好で来たほうが良かったか?」
義勇は下を向いて自分の姿を確認すると、陽華の顔を見た。誕生日だとも聞かされていない義勇はいつも通り、隊服のままだ。気を使って伺うと、陽華はぶんぶんと首を振った。
「義勇さんは隊服姿も素敵だから、その姿で大丈夫です!!」
本当の事を言えば、隊服以外の姿で普通の恋人同士のように歩いてみたい。けど、流石にそんな我儘は言えない。
陽華が気持ちを悟られないようにニコッ微笑むと、義勇も穏やかに微笑んで「そうか。」と返した。
そんな穏やかに微笑み合う二人の姿を見て、妙は一人、気持ちを高ぶらせていた。
(やっぱりあの笑顔っ!冨岡さんも満更ではないんだわっ!きゃーー、若いって素敵♡)
と、女子学生のように盛り上がっていた。
そんな妙の気持ちを知ってか知らずか、義勇と陽華の二人は、妙に「行ってきます」の挨拶をすると、鳴柱邸を後にした。