第10章 進物 前編【冨岡義勇】
一方、陽華の方は呼吸を変えるなどの出来事もあったようだが、どうにか選別を突破し、無事に鬼殺隊に入隊を果たした。
任務などで会う機会も増えたが…、何と言うか…子供の時分よりも一層と活力に溢れ(ようするに騒がしい……)、随分と俺を困惑させてくる。
そしてその後も、俺はこの未知の小動物の存在に振り回されながらも、自分にはない強さと優しさ、底抜けの明るさに心を揺さぶられ、今までの持ち合わせたことのない感情に悩まされることとなるのだが…、
この感情が何なのかは分かっている。だが、けして知られてならない。万が一にでもこの気持ちが漏れ、あの無邪気な笑顔を曇らせる事態だけはあってはならない。
所詮俺は、恩人という尾ひれが付いただけの存在で[特別」ではないのだから。
でもそれでも構わない。
どんな理由でも
アイツのそばにいて、あの無邪気な笑顔が守れるなら…
それだけが俺の存在意義だから……
・
そんな懐かしい記憶と、切ない想いに馳せるように、義勇は居間の天井を仰ぎ見た。すると、視界の隅に壁に設置された掛け時計が入ってくる。
そう言えば妙が出ていってから、結構な時間が経った気がする。出された茶もとうに冷たくなっていた。
(一体、何をしているんだ?)
と疑問に思い始めた頃、ようやく襖の向こう側から「失礼します」と声をかけられた。
義勇が返事をすると、妙がバーンっと大きく襖を開けた。
「お待たせいたしましたっ!」
妙の嬉しそうな声の後、その後ろから姿を見せた陽華に、義勇は驚きの表情を浮かべた。
「お、お待たせ…しました。」
そう言って、もじもじと恥ずかしそうに義勇と目を合わせた陽華は、普段任務でしか合うことのない義勇が、初めて見る和装、着物に身を包んでいた。