第10章 進物 前編【冨岡義勇】
そんな陽華の姿に戸惑っていると、見かねた先生が横から口を挟んだ。
「陽華、我儘を言うな。義勇はもう立派に鬼殺隊員として、その激務に励んでいる。お前も鬼殺隊となれば、会う機会も増えよう。それまで精進しろ。」
「うぅ…、はーい。」
少し不貞腐れたように返事をするが、陽華はすぐに気を取り直すと、俺に満面の笑顔を向ける。
「待っててくださいね?私、義勇さんのように、立派な鬼殺隊員になってみせますっ!」
「あ、あぁ。」
陽華の勢い押され、そう頷いてしまった。自分は鬼殺隊員ではないと、先程あんなに断言しておきながら…、
胸が痛むのを感じたが、こんなにも素直に自分のことを信じてくれる陽華の期待を、なぜか裏切ることが出来なかった。
俺は再度、二人に別れを告げると寛三郎を肩に乗せて小屋を後にした。途中振り返ると、陽華はまだ俺に向けて、手を振ってくれていた。その状況に少しだけ気恥ずしさに感じ、軽く頷いて返すとすぐに背中を向ける。
その瞬間、心の臓が疼くような感覚が走り、思わず手で抑えた。何だと言うのか、この後ろ髪を引かれるような気持ちは…、
腕にもまだ、陽華に裾を引かれた感触が残っている。
こんなにも未熟で情けない俺にも、頼り縋ってくれる手があることを…初めて知った。
真の鬼殺隊員になりたいなどと、そんな烏滸がましいことは言わない。
先生があの時言わんとしたことの意味も、まだわからない。
だが、あの娘…陽華にだけは恥じぬ剣士になりたい。そう…心に強く思った。
「義勇、ドウシタ?」
小屋が見えなくなり暫く経つと、肩の寛三郎が不思議そうに俺の顔を覗き込んで、そう問いかけてきた。
俺は質問の意図が掴めず、反対に問い掛け返すように「ん?」と首を傾げた。
「今日ハトテモ、穏ヤカナ顔ヲシテオル。ソンナ顔ハ、ハジメテミタゾ。良イコトデモアッタノカ?」