第10章 進物 前編【冨岡義勇】
「美味しい…。」
俺は率直な感想を口にした。
塩味と甘味の加減も丁度良く、鮭もほろほろと解れ、大根も柔らかく煮立てられている。一つだけ難を言えば、時間がなかったせいか大根の芯まで味が染みてないことか。
俺が感想を述べると、陽華は本当に嬉しそうに顔を綻ばせ、安堵したように胸の前で手を合わせた。
「良かったぁ!私、本当はここに来るまで料理したことがなくて…、でもこれだけは冨岡さんに食べて貰いたくて、たくさん練習したんですっ!ねっ、先生?」
陽華がそう先生に問いかけると、先生はうんざりしたように小さく呻いた。
「あぁ、何度も実験台にされたな。」
「はいっ、いつも有難う御座います!」
陽華は悪びれもせずに先生に向かって礼を述べると、屈託のない顔でニコニコと微笑んだ。
それから陽華は、引っ切り無しに喋り続けた。修行中のこと、先生とのこと、自分のこと。
コロコロと表情を変え、本当に楽しそうに笑っては、「調子に乗るな」と先生に言われ、拗ねたように頬を膨らます。錆兎を失って以来、暗く淀んで見えていたこの小屋は、陽華がいるそれだけで明るく華やかに見えた。
それと同時に俺は、心が段々と暖かくなっていくのを感じていた。何年ぶりだろうか、こんなにも心が穏やかになったのは……。
気付いたら俺は、すぐ帰ると言ったことも忘れ、陽華の話しに聞き入っていた。
そうしてどれくらいが経ったのだろうか、日が傾きはじめると、寛三郎が任務を携えて俺の元に戻ってきた。玄関でその手紙を受け取り中身を確認すると、俺は中の二人にそろそろ次の任務に行くことを告げた。
小屋の玄関口で先生に別れの挨拶をしていると、陽華が横から俺の羽織の裾を掴んで、くいくいっと引っ張った。
「とみ……義勇さん…、あの…また来てくれますか?」
そう言って、陽華が寂しそうに瞳を潤ませる。