第10章 進物 前編【冨岡義勇】
「そうだ、あの子はお前を心の底から尊敬している。そしていつかはお前のように、容赦なく鬼の頸に刃を振るい、弱き者を助ける。そんな気高い鬼殺隊員になりたいと常日頃から、わしに言っている。
そしてもう誰も奪われることもなく悲しむことのない、そんな暖かい日に溢れた世界を作りたいそうだ。」
俺は「そうですか。」と呟くと、ゆっくり視線を落とした。先生の言葉がまるで他人事のように頭に中に響いていた。
気高い…、俺が?選別で何も出来ずに、ただ親友に守られただけの無力な俺が?
あまりにも自分からはかけ離れた印象に、目眩すらしてくる。
「先生、俺は…そんな大層な人間じゃありません。それに鬼殺隊員でもない。」
そう言いながら、俺は膝の上に乗せた手にぎゅっと力を込めた。
そうだ、親友の錆兎に守られただけの俺は、自分の力で選別を突破していない。そんな俺が鬼殺隊員を名乗るなど烏滸がましいことだった。
力なく項垂れる俺を見て、先生は溜息の代わりに、うむと小さく唸った。
「義勇、もうニ年だ。お前はもう、鬼殺隊として充分にその働きをしている。もうそろそろ…、」
「いえ、まだです!こんなものでは…足りない。錆兎ならもっとっ…、」
そうだ、錆兎ならもっと出来る。もっと多くの鬼を狩り、もっとたくさんの人を救える。ここにいるのが俺なんかじゃなく…錆兎なら……、
やり場のない感情を押し殺すようにさらに拳を強く握りしめた俺に、先生は優しく解くように言葉を掛ける。
「だが、あの子を…陽華を守っただろ?」
「家族は…守れませんでした。そんな俺を尊敬するなんて、あの娘は間違っています。」
俺がもう少し早く鬼の動向に気付けていたなら、陽華の家族は鬼に殺されていなかった。恨まれるならまだしも、尊敬される筋合いはない。