第10章 進物 前編【冨岡義勇】
「驚いたか?」
小屋に入り、囲炉裏の側に腰を落ち着かせると、同じく囲炉裏を囲むように斜め左隣に座った先生は俺にそう問いかけた。
「はい。あの時の娘とは思えません。」
そう言って、土間の炊事場をバタバタと動き回り、調理に励む陽華の背中を驚いた顔で見つめた。
先生は「そうだな。」と呟き、静かに腕を組んだ。
「ここに来る子はみな、鬼によって大切な者を奪われた子が殆どだ。陽華も暫くは鬱ぐ事も多かった。だが、鬼殺隊の歴史やその役割、鬼の生態、そしてその元凶を学んで行くうちに、漸く自分の進むべく道を見つけたようだ。」
そう言いながら先生は炊事場の陽華に視線を移した。
「あの子は剣の太刀筋もいいし、要領も悪くない。選別さえ突破出来たなら、鬼殺隊の一員として戦えよう。だがな、一つ問題がある、水の呼吸が合っていないようだ。」
「そう…ですか。」
その言葉に俺は少し気を落とした。今の水の柱には後継者と呼べる継子がいない。順当に行けば、元水柱である鱗滝さんの弟子の俺もそれを目指すべきなのだろうが、生憎俺はその資格を有していない。
もし誰か他に継いでくれる者がいてくれるなら…と、思っていたのだが…。
「あの子は雷のように真っ直ぐで猪突猛進なところがある。もしかしたら、雷の呼吸が合うかもしれんな。」
そう言って笑う先生に合わせるように、力なく相槌を打つ俺を見て、先生は何を考えているのかわかったのかもしれない。
ふぅ…と息を吐くと、俺の方に向いて、こう言った。
「義勇、あの子はな。お前のような鬼殺隊員になりたいそうだ。」
「俺の…?」
俺が訝しげな表情を浮かべ先生を見ると、先生は小さく頷いた。