第10章 進物 前編【冨岡義勇】
「それで…わたしっ…、冨岡さんにどうしてももう一度会いたくて…、あのっ…、」
「少し、落ち着け。」
俺が落ちつかせるように言うと、陽華は一瞬で顔を真っ赤にして、少し恥ずかしそうにニッコリと笑った。
「っ!?」
その笑顔に衝撃を受けた。これがあの時の女児か?家族を亡くして、死んだように無表情で俺の後を付いてきたあの娘とはまるで違う。
いやきっと、これが本来の姿なのかもしれないが。俺が驚いて押し黙っていると、陽華は突然思いついたように「あっ!」と声を上げた。
「そうだ!!冨岡さん、まだ来たばかりですよね?ぜひ、お昼ご飯食べていってくださいっ!」
「いや…俺は…、」
すぐ帰る。そう言おうとした俺の言葉を遮って、陽華は後ろの先生に声を掛けた。
「先生っ!今朝、川で鮭が釣れたって言ってましたよね?」
「あぁ。」
その返事を確認すると、陽華は俺の顔を覗き込んできた。
「鮭大根、お好きだってお聞きしました!私、先生に習ったんです。いつか冨岡さんに作って差し上げたいと思って。今から作りますから、先生とお話でもして待っててくださいね!」
「え、いや…、」
陽華は俺の返事も聞かず、落とした山菜をささっと拾うと、俺の横をすり抜けて、小屋の中に入って行った。
「先生、これは…、」
俺が唖然した表情で明らかに戸惑っている様子を見ると、先生はククッとお面の下で、小さく含むように笑った。恐らく陽華のこのノリにもう慣れているのだろう。
そして、助け舟を出すようにこう言った。
「任務を終えたばかりで疲れているだろう。とりあえず、上がったらどうだ?」
そして俺は、先生に促されるままに小屋の中に入ることになった。