第10章 進物 前編【冨岡義勇】
ー 数年前・狭霧山【冨岡義勇回想】
ちょうど狭霧山近くでの任務を終えた俺は、忙しくて暫く会えていない恩師への挨拶と親友への近況報告も兼ねて、山へ立ち寄ることにした。
それに半年ほど前に先生に預けた女児。押しつけるように置いてきてしまったが、以来現況も聞けてない。便りがないということは、まだあの山にいるとは思うが。
「先生、ご無沙汰してます。」
久しぶりに帰ってきた小さな小屋の玄関口で、俺は師である鱗滝左近次に挨拶をした。
「義勇、よく来たな。息災で何よりだ。」
「お陰様で何とかやれてます。近くで任務がありましたので、挨拶だけでもと立ち寄りました。」
上がっていくか?と気遣う先生に、すぐに失礼することを伝え、俺は周りを確認するようにキョロキョロと視線をめぐらした。
「先生、俺が連れてきた女児はどうなりましたか?」
「陽華か?」
陽華……、そう言えばそう名乗ってた気がする。俺が頷くと、先生はうむと小さく唸った。
「なんとか鬼殺隊に入隊すべく、修行に励んでいる。今は朝の鍛錬を終え、山に山菜を採りに行ってるところだ。」
「そうですか。」
先生の言葉に少しだけ安心した。それだけわかればいい。俺は先生に掛けたご迷惑に対して、謝罪と感謝の言葉を述べると、その場から離れようとした。
その時だった。後ろから、バサッと何かが落下する音が聞こえ…、
「とみ…おか……さん?」
同時に名前を呼ばれた俺は、声のする方へ振り向いた。
「やっぱりっ、冨岡さんだっ!」
そう言って、嬉しそうに俺に向かって走り寄る女の子。それは半年ほど前に助けた女児だった。
先程の落下音はこれだったのか、彼女がいたと思われる地面には、落とした籠と山菜が散らばっていた。
「やっと、会えましたっ!ずっとお会いしたかったんですっ!!私あの時、喋ることもままならなくて、助けて頂いて…あんなにお世話になったのにお礼も充分に言うことが出来なくて……、」
そう言って、矢継ぎ早に必死に喋りだす陽華を、俺は面を食らったような表情で見つめ返した。