第10章 進物 前編【冨岡義勇】
(冨岡さん、まさかあんなに直球な陽華さんの愛情表現にも気付いてないなんて……、)
水柱は天然…なんて噂は昔から隠の中で出回っていたけど、まさか本当だったとは。絶対的な存在の柱がなんだか可愛く見えてくる。
妙がほのぼのした気持ちで義勇の顔を見つめると、反対に義勇は不思議そうな顔を妙に返してきた。
そんな義勇に、妙は安心させるように微笑んだ。
「ふふ、何でもありません。それにしても陽華さんて、昔からあんな感じなんですか?」
そう問われ、義勇は出会ってから今までの陽華の行動、言動を思い返してみた。
「まぁ…概ね。でも…出会った時は…違かった。家族…親兄弟を失ったばかりで、流石に静かでした。」
義勇がその時の事を思い出し、ゆっくりと視線を落とすと、妙も気持ちわかりすぎるくらい分かるのか、「そう…ですか。」と小さく呟いた。
「でも…強い子ですね。そんな悲しい出来事があったのに、そんなことを感じせないくらいにいつも笑顔で、誰にでも優しく接することが出来るなんて……、」
妙の言葉に義勇はコクリと頷いた。
「本当に強い……、」
実際に、陽華が弱音を吐く所をあまり見たことがない。落ち込むことはあっても、次の瞬間には立ち上がってくる。
いつも前向きで馬鹿みたい明るくて、その振舞いと笑顔で、周りの人間をも巻き込んで笑顔にさせてくれる。
いつも後ろ向きで、過去に囚われてばかりの自分なんかとはまるで違う。そしてその直向きな笑顔と元気に、何度心を奮い立たせられたことか…、
「アイツは俺に…感謝の気持ちばかりを伝えてきますが、本当に助けられたのは……、っ、」
話しすぎたと思ったのか、義勇は口元に手を軽く当てると妙の顔を見た。
「すみません、こんな話し…、」
「いえっ!…でも本当に穏やかな顔をされますね、陽華さんのお話をされてる冨岡さんて。」