第10章 進物 前編【冨岡義勇】
一方、陽華によって居間に押し込まれた義勇は、陽華の不可思議な行動に戸惑いながらも、とりあえず中央の座卓に置かれた座布団に腰を落ち着けてみた。
「相変わらず、騒がしい奴だ。」
そんなことをポツリと呟きながら、今日会ってからの陽華の一連の行動を思い返しては、少しだけ顔を緩める。
本当に陽華は昔から、義勇には予想も想像も出来ない行動に出ることがある。
それはいつも、ほとんどが驚いて呆れるような事ばかりだが、時には喜びや安らぎ、悲しみや焦りと言った、義勇が無くし掛けていた、人間としての様々な感情を思い出させてくれていた。
まぁ…時には、今まで感じたこともない感情に胸がザワつくこともあるのだが……、
そんなことを考えてると、お茶を運んできた妙が部屋に入ってきた。
「どうぞ。」
妙に差し出されたお茶を受け取ると、義勇は一口啜りふぅと息を吐く。
すると妙は、何かを聞きたくてウズウズしてるといった表情で義勇に問いかけてきた。
「冨岡さん、聞きましたよ。二人でおでかけするとか…。今日はどちらに行かれるご予定なんですか?」
妙に質問に義勇は戸惑ったように首を捻った。
「いや、何処へかは…まだ。街へ行きたいとは行ってましたが、あの通り行動を予見するのが難しいところがあるので…、」
義勇が少し困った表情を浮かべて答えると、妙はくすくすと笑った。
「ふふ、そうですね。本当に面白い子です。でもそこが陽華さんの魅力でもありますね。」
妙の言葉に、義勇は納得するように「確かに…」と呟くと小さく頷いた。
「楽しんできてくださいね。今日は、陽華さんのお誕生日でもありますから、思う存分、祝って差し上げてください。」
笑顔で妙がそう告げると、義勇は驚いたように目を見開いて妙の顔を見た。
「……誕生…日?」
「え!?知らなかったんですか?」
「…あ…いや…その、隊に入って以来、誕生日という物の概念すら頭になくて、……自分のですら、もう何年も、」
そう言って、少し気まずそうに答える義勇に、今度は妙が首を傾げた。