第10章 進物 前編【冨岡義勇】
義勇を居間に通して、急ぎ足で自分の部屋に向かう。乱暴に羽織を脱ぎ捨てると、手ぬぐいと新しい下着を掴んで、風呂場に向かった。
途中、通りにある炊事場にいた妙に問いかける。
「妙さん、お風呂は!?」
「そろそろお帰りになる頃だと思ったので、焚いて置きましたよ。」
いつも帰る頃合いは、鴉を飛ばして先に知らせてある。妙はそれを目安にして、任務後でお疲れの陽華の為、風呂の準備をしてくれている。陽華はそんな妙の心遣いに感謝した。
「妙さ〜ん、いつもありがとう!!」
「いえいえ。それよりもそんなに慌てて、どうしたんですか?」
不思議そうに問いかける妙に、陽華は照れたようにはにかみながら、こう告げた。
「あのね…、今日は義勇さんと…二人で出かけるのことになったの。」
「あらっ、そうですか!そうですよね、今日はお誕生ですものね。でも、いつの間にそんな仲になられたのですか?」
「べ、別にそういうわけじゃないんだけど…、成り行きで。」
「そうなんですか?でも、良かったですね♡じゃあ、目一杯おめかししなきゃ…ですね?」
「うんっ!!……妙さん、あのさ、お化粧とか出来る?」
控えめに、恥ずかしそうに聞いてくる陽華が可愛くて、思わず抱きしめてしまいそうなるが、我慢すると、妙は優しく微笑んだ。
「教えて差し上げますよ。とびきり可愛くなって、冨岡さんを驚かせましょう?」
「うん、ありがとう!」
陽華は満面の笑みでそう返すと、浴場に方向に走り去っていった。妙はその背中をキュンキュンした気持ちで見送ると、「あ、お茶お茶……、」と呟いて、炊事場に戻っていった。