第10章 進物 前編【冨岡義勇】
「妙さーーんっ!」
玄関で、鳴柱邸付きの使用人の名前を叫ぶ。暫くすると「はーい」と声が聞こえて、奥から四十代前半くらいの女性が出てきた。
「陽華さん、おかえりなさいませ。」
そう言って笑顔で陽華を迎えてくれた使用人の妙は、元隠の女性だ。
二十代の頃、夫と子供を鬼に奪われ、隠として鬼殺隊に入り、長い間貢献してきたが、一年ほど前にずっと支えてくれた隠の男性と再婚。今は引退し、隠を続けている夫を支えながら、鳴柱邸の使用人を通いでしてくれている。
陽華にとっては、相談に乗ってもらったり、助言してくれたりと、母や姉のような存在だ。
「ただいまですっ!妙さんっ!水柱がいらっしゃったの、居間にお通しするから、お茶出してください!!」
少し慌てたように早口で説明する陽華の後ろに、義勇の姿を確認して、妙は微笑みながら挨拶した。
「あらあら〜。これは冨岡さん、お久し振りです。」
「妙さん、お久し振りです。」
妙は隠としての経験も長い、当然義勇とも顔見知りだった。穏やかな表情で挨拶を返す義勇の顔を見ると、妙は見惚れるようにジッと見つめ、顔をポッと赤くした。
「変わらず…ですね♡」
「?」
妙の言葉の真意がわからず、首を傾げていると、陽華がまた掴んだ手首を引っ張った。
「さ、義勇さん!居間はこっちです!」
そう促されて、義勇は妙に会釈すると、陽華を後を小走りに付いて行く。
「なぁ、陽華。今、妙さんにジッと見られた気がする。俺の顔に何か付いてるか?」
「大丈夫です!義勇さんの顔は、今日も完璧ですっ!」
「そ、そうか?」
またもやハテナマークを飛ばしたまま、義勇は詰め込まれるように、居間の中に押し込まれた。