第10章 進物 前編【冨岡義勇】
陽華は食い気味に義勇に詰め寄ると、突然、義勇の手首を掴んだ。
「義勇さん、こうなれば善は急げですっ!行きましょっ!」
「ど、どこに行くんだ?」
陽華のいつにもない迫力に圧されながら、義勇が問いかける。
「街ですっ!私、義勇さんと街を出歩きたいです!」
「構わないが、任務から帰ってきたばかりだろう?少し休んだ方がいいんじゃないか?」
義勇が気を遣い、心配するように問いかけると、陽華はブンブンと顔を横に振った。
「そんなの、勿体ないですっ!」
「も…もったい…ない?」
戸惑う義勇に背を向けると、陽華は掴んだ手を引くように歩き出した。しかし、数メートル行くと、突然思い出したかのように、その場に立ち止まる。
(待ってっ!義勇さんとの折角のお出かけなのに、おしゃれとかしなくていいの!?ていうか私、任務後だし、汗臭いんじゃない??)
興奮しすぎて、忘れていた。陽華は振り返り、義勇と顔を合わせると、今更臭いを気にしだしたのか、少しだけ離れる。
「ぎ、義勇さんっ!やっぱり一旦、戻りましょう!」
「?」
突然、踵を返し、コロコロを動きを変える陽華に、義勇の頭に付いたハテナマークが増えていく。
「私、準備があるの忘れてましたっ!とりあえず、家に上がって、お茶でも飲んでてくださいっ!」
「あぁ…俺は構わないが…、」
返事を確認すると、陽華は義勇の後ろに回り、背中を押すように来た道を引き返す。屋敷の前まで来ると、そのまま義勇を屋敷の中へと連れ込んだ。