第10章 進物 前編【冨岡義勇】
そんなことがあった一週間後の陽華の誕生日。任務を終えた朝、鳴柱邸に帰るとなぜか屋敷の前に冨岡義勇がいた。
「義勇さん、一体どうしたんですか?」
慌てて駆け寄り、声を掛けると義勇はいつもの涼しい顔のまま、こう答えた。
「お館様に言われて、ここへ来た。それと…これをお前にと、お館様が。」
そう言って渡されたのは、一通の文。陽華は首を傾げながらもその文を開いて、目を通した。
ー 陽華へ
お誕生日おめでとう。
義勇がいて、驚いたかい?君が義勇に密かに想いを寄せていることは、すでに調査済みだよ。
これは私から、君への誕生日の贈り物だ。今日は一日、義勇を自由にしていい。義勇にも了承を得ている。
充実した、有意義な一日を過ごしてくれ。
産屋敷輝哉
追伸 義勇は夜も予定を空けておいたよ♡
(……へ?
どゆこと??お館様、頭でもおかしくなったの?
つか、何でお館様にばれてんの?限られた人にしか言ってないんだけど。でもあの人なら、何も言わなくても脳内まで見透かされてそう……。
でも今はそこじゃない……、)
陽華は、チラッと義勇の顔を見た。
(まさか…好きだってこと、義勇さんに言ってないよね?……なんて説明したのよ?
出会って五年、ずっと密かに想い続けた恋心、こんなことでバレたりとか……、)
「あの…、義勇さん?お館様にはなんて言われてここへ来たんですか?」
少しキョドりながら問いかけると、義勇はその顔を崩すことなく、こう答えた。
「たまには柱同士、互いを労い合うことも大切だと言われた。今日は一日、お前に付き合い、労ってあげてくれ…と。」
(よしっ!)
義勇の答えに、思わず拳を握りしめる。
(とりあえず気持ちはバラされてないっ!!…ほんと、ドキドキさせないでよ、お館さまぁ〜!!)
安堵すると共に、胸の中にワクワクするような高揚感が湧き上がってきた。
(…てことは、待って!本当に今日一日、義勇さんと一緒にいられるって事だよね?)