第10章 進物 前編【冨岡義勇】
と、自分の経緯を思い返して、足早に説明してみる。
(つか、思い返せば、義勇さんにはお世話になりっぱなしなんだよね。)
そんなことを考えて、ちょっと落ち込んだ気持ちになり、また傷口を擦ってしまう。
(だって結局、その後も……、)
義勇は行く宛のない孤児の陽華に、鬼殺隊という道を示し、鱗滝という育手まで紹介してくれた。
それからはまぁ、色々と紆余曲折はあったが、無事に鬼殺隊に入隊し、鬼殺隊士としての人生を歩むことになる。
辛いことや悲しいことが多いこの仕事。何度も逃げ出そうと思ったが、その度に、優しく時には厳しく見守ってくれている義勇の存在を思い出して、頑張ってこれた。
そして、そんな憧れの義勇に少しでも追いつくため、その恩に報いるためにも、陽華は血反吐を吐くような任務や鍛錬に励み続け、現在の階級【柱】。義勇と同じの位まで、昇り詰めることが出来たのだ。
だが、並んだ今でも気持ちは伝えられていない。義勇にはそんな気がないことは分かりきっている。きっと陽華のことは、妹のようにしか思っていない。
もし気持ちを伝えたら、本当は優しい義勇のことだ。いらぬ気遣いをさせてしまうことになるかもしれない。
そう思うと、気持ちを告げる勇気など、湧くはずもなく……、
陽華は再度、小さくため息をついた。
「…義勇さん、会いたいなぁ。」
想いが通じ合わなくても、その姿を見れるだけでもいい。そんなことを考えながら、陽華は段々と暮れていく鬼殺隊本部の空を切なげに見上げた。