第10章 進物 前編【冨岡義勇】
その後、陽華は最近の鬼の傾向などを報告して、暫く歓談したのち、そろそろお暇しようと腰を浮かせた。
それを、「あっ」と、何かを思い出した耀哉が引き留めた。
「そういえば、陽華。もうすぐ誕生日だったね。私から何か贈ろう。欲しい物はあるかい?」
「へ!?だ、大丈夫ですっ!お給料はきちんと頂いてますし。欲しい物は自分で…、」
慌てて拒否する陽華に、耀哉は優しく微笑んだ。
「遠慮しなくていい。君たち柱には、過酷な労働を強いてるからね。何か労いたいんだ、本当に何もないのかい?」
お館様の心遣いに感謝しながら、「それならば…」と、陽華は座り直して、少しだけ考えてみる。
本当に物系はいらないし、食べたい物は自分で買える。……他に自分の手で入りづらい物と言えば……、
「強いて言うなら……彼氏?」
少し茶目っ気ぎみに言うと、耀哉は「ふっ」と、小さく吹き出した。
「素直でいいね。」
「あっ、でも冗談ですっ!!本気にしないでくださいね?本当に気を使わなくていいですからっ!じゃあ、もう行きますねっ!」
そう言って、陽華は立ち上がると、ペコリと耀哉に頭を下げて、慌てたように部屋から出ていった。
その足音が、段々と遠ざかって行くのを聞きながら、耀哉は膝の上に乗せた鴉の頭を優しく撫で、小さく呟いた。
「いい事を思いついた。さて、あの子達は喜んでくれるかな?」
そして耀哉は、何かを企むようにニッコリと微笑んだ。