第10章 進物 前編【冨岡義勇】
任務の報告の為に訪れた産屋敷家の一室で、陽華はお館様・産屋敷耀哉と対面した。
「陽華、任務ご苦労だったね。今回の鬼は手強かったと聞いたよ。」
そう優しく労いの言葉を掛ける耀哉を、陽華は緊張の面持ちで見つめ返した。
鬼殺隊に入って四年。柱に着いて一年ほど経つが、今だにお館様と会うと、少しばかり緊張する。
陽華は耀哉の言葉に、恥ずかしそうに顔を俯かせると、小さく答えた。
「いえ、私の要領が悪かったせいで、苦戦してしまっただけなんです。……他の柱…先輩達だったら、もっと上手く立ち回れたと思うと、本当に情けないです。」
そんな陽華に、耀哉は優しく微笑んだ。
「謙遜だね。鴉から報告は受けているよ、戦いの場に迷い込んだ民間人を、守ったそうだね。」
耀哉の言葉に、陽華は驚いた顔を見せた。
(……お館様、知っててくれたんだ。)
確かに、街中の任務の最中、鬼を追い詰めた人気のない路地裏に、突然いい感じに酔っ払ったおじさんが現れた。しかも、そのおじさんは眼の前の鬼に気づくと、あろうことか、気さくに話しかけ始めたのだ。
追い詰められて、もうすでに気の立っていた鬼は、迷うことなくおじさんに鋭い牙を向けた。既の所で陽華が庇い、事なきで終えたが、鬼はその拍子に逃げてしまい、探し出すのに朝まで掛かってしまった。
かと言って、それを言い訳には出来ない。それに、きっと他の柱達…特にあの人…、陽華が憧れるあの人なら、もっと冷静に立ち振る舞えただろう。そう思うと自分はまだまだ、その人の足元にも追いつけてないのだと、軽く落ち込んでは来る。
そんな陽華の気持ちを表情で汲み取ったのか、耀哉は微笑むと優しく言葉を掛けた。
「鬼殺隊の本分は鬼を斬ると共に、民間人の保護だ。陽華、君は立派に責務を果たしたよ。」
「あ、ありがとうございますっ!!」
お館様の配慮と優しさに、涙が出そうになりながらも感謝し、心から礼を述べた。