第9章 睡眠【※不死川実弥】
「おい、何処いくんだァ!」
「実弥の顔なんか、もう見たくない!一人で行くっ!」
「一人でなんか、危ねェーだろがっ!」
そう言って、後を付いてこようとする実弥を振り返った陽華が手を前に出して、制する。
「付いてこないでよっ、変態っ!」
「変態!?…ンだよっ、もう勝手にしろっ!」
悪態をつくよう言い放ち舌打ちすると、実弥は陽華とは別の方向に歩き出した。
少し頭を冷やせば、落ち着くと思った。陽華だって、鬼殺隊に入って数年になる。階級だって低くない。身に危険を感じたら、逃げるだろう。
そう楽観視ししてしまった。
しかし、その数十分後だった。
陽華の悲鳴が聞こえ、急いで駆けつけた実弥の前には、倒れた陽華の姿と、傍ら佇む鬼の姿があった。
「テメェーー!!」
そのまま我を忘れ、怒りに任せて、鬼の頚を切った。
しかし、鬼を倒したのに陽華が目覚めない。焦った実弥は陽華を肩に担ぎ上げると急いで山を降りた。
そして、藤の家の門を叩いた。
・
「はぁ……。」
一連の出来事を思い出して、実弥は深くため息を吐くと、壁の時計を見た。
家の女が去って、暫く立つ。まだなのか?少しイラつき掛けた時、この家の専属の医者が来て、陽華の診察が始まった。
じっと黙っていたそれを見ていたが、医者の手が止まると、実弥は我慢出来ずに問いかけた。
「で、どうなんだァ?」
「はい。外傷もないですし、呼吸も脈も、胸の音も正常です。ただ本当に眠っているだけですね。鬼も倒したという事ですし、いつも通り、時が経てば術も解けると思います。」
そう言った医者の言葉に、実弥は心から安堵した。一つ息を長く吐き出すと医者に礼を言う。
「そうかい。こんな真夜中に、呼び出しちまって、済まなかったなァ。」
「いえ、これが私の仕事ですから。…では。」
広げた道具を纏めると、医者は部屋から出ていった。それを見送ると、家の女が実弥をチラッと見た。
「アンタも悪かったなァ。もう寝てくれ、コイツの面倒は俺が見るわ。」
その言葉に女は一礼すると、部屋から出ていった。
全員が出ていくと、実弥は陽華の寝顔を心底安心したように優しげに見つめた。