第9章 睡眠【※不死川実弥】
陽華とは、付き合ってもうすぐ一年ほどになる。
実弥ははじめ、ここで特別な人間を作る気はなかった。ここ鬼殺隊にいるかぎり、自分はいつ死ぬかわからない身。性欲を満たすなら行きずりの女か遊郭で充分、そう思っていた。
しかし、そんな実弥の前に陽華は現れた。
元来の真面目な性格が邪魔して、自分にも他人にも厳しい実弥は、人と衝突することも多く、さらに父親譲りの鋭い目つきに顔の傷も相まり、好んで近寄る者もそんなにいなかった。
しかしそんな実弥に、物怖じしない性格の陽華は怯むことなく絡んできた。
最初はうざがっていた実弥も、自分にはない人懐こい明るい性格、そして自分に微笑みかけられる屈託のない笑顔、惹かれるのに時間は掛からなかった。
気付いたら、どうしようない想いが込み上げ、気持ちを告げていた。陽華も同じ想いを告げ、この関係が始まった。
今ではもう、実弥が生きていく上でかけがえない存在になっている。
「なぁ、陽華…、任務の後、時間あるかァ?」
「うん。任務は入ってないよ。」
「そうかァ。…なら、俺と…久しぶりに…いいか?」
久しぶりに感じた陽華の匂い、その肌や唇の感触に、少しだけ反応してしまった下半身を軽く押し付ける。
その行動に、陽華が実弥の身体を強く押し返した。
「ねぇっ!……なんかさ、最近会うといつも、そういうことしてない?」
「アァ?……恋人同士なんだから、別にいいだろォ?」
「そういうことが目的みたいで、嫌なんだけどっ!」
そう言って、頬を膨らませる陽華に実弥が苛ついたように眉を顰めた。
「別にそういう訳じゃねェけど、仕方ねェーだろっ?会う機会だって、そうそうねーんだァ。こっちだって、溜まるモンは溜まんだよっ!」
「……でも、たまには一緒に出掛けたり、美味しい物食べに行ったりとか…、したいんだもんっ!」
「……じゃなんだ?俺に遊郭でも行って、抜いて来いって行ってんのかァ?」
「そういうこと、言ってるんじゃないでしょ!!……もういいっ!」
陽華は実弥に背を向けると、暗い山に向かって、一人歩き出した。