第9章 睡眠【※不死川実弥】
そう言うと女は、女隊員の隊服を脱がし、タンスから取り出した寝間着の浴衣を着せる。それを実弥も手伝うと、二人して布団の上に寝かせた。
掛け布団を被せると、藤の家の女は慌てて、医者を呼びに母屋に走って行った。
実弥はその後ろ姿を見送りながら、一息付くと布団の側に座り込み、目の前で死んだように寝ている女隊員の顔を見つめた。
「ったくよォ、血鬼術なんかに、かかってんじゃねェーよっ!クソっ!」
と、悪態をついては見たものの、本当は自分が別行動を選んだことを後悔していた。
実弥はため息をつくと、目の前の女隊員の顔を見た。
この隊員の名は、氷渡陽華。鬼殺隊の一般隊士で、実弥とは情を交わした間柄でもあった。
山で悲鳴を聞いて駆けつけた時、もうすでに陽華は倒れていて、実弥は怒りに任せて、その場にいた鬼の頚を斬った。血鬼術の正体もわからぬままに…。
(…俺があの時、意地でも離れなきゃァ…、こいつは…、)
実弥の頭に、数時間前、陽華と最後に交わした会話が思い起こされた。
・
ー 数時間前
鴉からの通達で、実弥は任務先の山に訪れていた。そして、集合場所に指定されたその山の麓で、陽華に会った。
恋人の陽華とは、約2ヶ月ぶりに会う。最近は鬼の動きが活発になっていて、担当範囲の多い柱は、昼は調査、夜は鬼狩りと、かなり忙しかったからだ。
「実弥、久しぶりだね。」
そう言って、すごく嬉しそうに可愛い笑顔を見せた陽華に実弥は無言で近づくと、伸ばした片手を首元に回して、静かに抱き寄せた。
「…どうしたの?」
「悪ぃ、少し…元気くれ。なんせ、久しぶりだァ。」
愛しい者の存在を確認するように、額に頬を擦り寄せる。
「じゃあ、私も。」
陽華がギュッと、実弥を抱きしめ返した。
久しぶりに感じる陽華の匂いと感触、一頻りそれを楽しむと、実弥は顔を離した。
「…陽華、」
名前を呼ばれ、陽華が顔を上げると、その唇に実弥の唇が重なる。この殺伐とした世界に、唯一の至福の時。
このまま何処かへ連れ去りたい気持ちになるが、任務前のため、グッと押しとどまる。実弥は唇を離すと、陽華の可愛い瞳をじっと見つめた。