第9章 睡眠【※不死川実弥】
「…くっそォ。完全に俺のせいだァ…、」
そう小さく呟くと、風柱・不死川実弥は、夜の暗い山道を一心不乱に駆け下りた。肩には一人の隊員を担ぎ上げている。
「俺が、コイツを一人にしなきゃァ…、」
実弥は悔しそうに一度舌打ちすると、木々を掻き分けて、夜の街道に出た。
蝶屋敷は……流石に遠い。なら、藤の家が妥当か。ここから、実弥の知っている近場の藤の家までは、約数キロメートルの道のり。
実弥は気合を入れるように、深く息を吐き出して呼吸を整えると、月明かりの街道を走り出した。
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ドンドンっ!
時刻は丑三つ刻、夜の静寂を破るように、藤の花の家の門が激しく叩かれた。
もうすでに、眠っていた家の者達だったが、その音で目を覚まし、急いで門に向かった。この家にとって、夜中の来訪者は珍しいことではない。
扉を開けたこの家の女主人は、実弥の姿に驚いた声を上げた。
「これはまぁ、風柱様!」
「夜分にすまねェ、ちょっとうちの隊員が、鬼の術に掛かっちまってなァ。」
その言葉に、門を開けてくれた女は、実弥の肩に視線を移した。そこには一人の隊員が担がれていた。
「あらっ!それは大変でございます。こちらへどうぞ、今は医者を呼びます。」
「頼むわァ。」
肩に隊員を担ぎ上げたまま、実弥は案内してくれる女の後を付いていった。
「風柱様、申し訳ありません。今日は隊員様が何人かいらしてまして、今は離れの方しか、部屋が空いておりません。そちらでも、よろしいでしょうか?」
「何処でも構わねェ、コイツを休ませられんなら。」
離れの部屋に案内され、肩に担いだ隊員を降ろすと、その顔を見て、女は少し驚いた顔をした。
「その方、女性だったんですね。……今、お布団を出しますね。」
「手伝う。」
二人で布団を広げると、家の者はその女隊員の羽織を脱がし、隊服も脱がそうと、襟元に手を伸ばす。
しかし、何かに気づいたように、女がチラッと実弥を見る。その視線に気づいた実弥は、慌てたようにこう言った。
「あ…、俺達は、なんだその…、そう言う関係なんだ。だから、俺のこたァ、構わずにやってくれ。」
実弥が鼻の頭を掻きながら、気まずそうに女を見た。
「そうですか、承知致しました。」