第67章 ❤︎ 治店長とバイト店員の初体験 宮治
クリスマスカラーで染まる歓楽街はどこかチープな雰囲気も醸し出している。表通りはファミリー層が多いのに、一つ筋が違えば大人で溢れる世界。そこをいちかと一緒に歩いていることも信じられない。
「賑やかやね」
「そら、イブやしな」
「みんなやることは一緒やね」
「言い方な。…けどこんだけホテルの数あって空いてるとこないな」
案の定、ホテル街の店はどこも満室。安さを売りにしているところはその部屋を狙っているであろう恋人たちの姿が待機しているようにも見えて、俺たちは少し外れの裏道へと歩みを進めた。イルミネーションの光も届かない暗がりの道沿いでたまたま通りかかった一軒のホテル。準備中のパネルが空室へと変わり「あ…」と二人の声が重なる。
「空室、あった」
「すごいタイミングやな」
「今夜は歩いて終わるだけかと思った」
「それはそれでええけど」
「嫌。絶対行く。ってかここに行く」
「ええんか?」
「いい。これは絶対運命やから」
「運命、なぁ…」
先を行くいちかを追いかける。自動ドアが開き、静かなロビーにはタッチパネル式の機械とソファ、そこにはクリスマスのオルゴールが静かに流れていた。
「誰もいないね」
「全部機械で操作するんやろな」
「治君ってこういうとこ来たことある?」
「まぁ、それなりには」
「高いんやね。2時間で15000円って…」
「クリスマス料金ってやつやろ?安い部屋は埋まっとるやろうし」
「私も出すよ?」
「要らんわ」
「でも2時間で終わらなかったら延長料金?」
「今日はちゃうらしいで?夜21時超えたら宿泊料金になるんやて。今もう20時すぎてるから無理やろな」
「え、待って。宿泊料金、35000円ってなってる」
「ぼったくってくるなぁ」
「大丈夫。私ギリギリ足りる」
「だから要らんて」
「大人の世界って怖い」
「ほないちかにはまだ早いってことや」
「いや大丈夫。勉強料やと思って…」
「金のことは気にせんでええから。最後にもう一回聞くけど、ほんまに俺でええんやな」
「うん。それはもう何年も前から決めてたことやもん。やっと夢が叶うなぁって思ってる」
「えらい奴に好かれたもんやな、俺も」