第67章 ❤︎ 治店長とバイト店員の初体験 宮治
あれからまた数ヶ月が経ち、今年も年の瀬が迫っていた。夜の街はクリスマス一色ですれ違う恋人たちの距離感に羨ましさも感じる。ふといちかどうしてるんやろか…と胸を過ぎってなんとも言えない複雑な感情が込み上げてきた。
忘れかけたはずなのになんで今になってこんなことを思い出すんやろうか。クリスマスが近づいてきて恋人のおらん俺の寂しさのせいなんか。一人で自問自答を繰り返すけど明確な答えはない。だけど一度思い出したらいちかのことが引っかかって一方的に想いだけが募っていく。これはどうしたものかと抱えながら状況が変わったのはそれから数日後だった。
この日も普段と変わらず夕方からの営業に備えて仕込みを始めていた時だった。準備中と立て看板をつけたはずの自動ドアが開き思わず視線を向ける。
「すんません、まだ準備中で…」
「こんにちは、治君」
視線の先には若い女性が一人。一瞬誰か分からな買ったけど聞き覚えのある声に記憶の蘇る。あの日最後に見た面影と重なる。
「いちか…?」
「へぇ、治君のお店、こんな感じなんだぁ。はじめて来ちゃった」
「なんやどしたん急に」
「あ、ごめんね、急に来ちゃって。お久しぶりです」
ふんわりと香水の匂いを運んできてにこやかに笑ったいちかは肩までだった髪も伸びて緩く巻かれて一年前よりもずっと大人びて見えた。
「一瞬誰か分からんかったわ」
「私、結構変わったでしょ?」
「見た目もそうやけど、喋り方も変わってるやん」
「今ね、東京の大学に行ってるの。今は冬休み」
「ああ、なるほど。それでこっち帰省してるんか」
「うん、そう。ところでさ、治君のお店ってバイト募集してたりする?」
「なんやいきなり」
「東京でバイト三昧の予定だったんだけど、うちのバイト先、冬休みを前に潰れちゃって」