第67章 ❤︎ 治店長とバイト店員の初体験 宮治
「……分かった。もういい」
「すまんな。力になってやれんで。俺が断ったから言うてヤケだけは起こしたらあかんで」
「ヤケって?」
「彼氏以外の男にそういうこと言うたりしたらあかんってこと」
「例えば?」
「ツムとか?あいつには同じこと絶対言うたらあかんで」
「なんで?」
「あいつは案外情で動くから。いちかが本気で頼めば手出すかもしれへん」
「私、侑君は好きだけど抱かれたいとは思わへん」
「それならええ」
「私は治君がいい」
「だからそれは…」
「分かってる。もう無理言わない」
ご機嫌斜めないちかは背を向ける。何かかける言葉がないものかと頭をフル回転させても恋愛下手な俺にはそんな言葉が浮かぶはずもない。
「帰るんなら送っていこか?」
「いい」
「気をつけて帰れよ」
いちかから返答はないまま部屋から出る後ろ姿を見送った。いちかを傷つけてしまったみたいで一瞬の後悔が胸を突く。けど俺は大人としては当然のことをしただけと正論が降ってくる。
「今までは兄妹みたいな関係やったけどこれからは疎遠になるかもしれんな。…しゃーないけど」
二人の結末が静まった部屋で虚しい独り言として消える。この一件からいちかは俺の家に寄り付かなくもなって高校卒業と同時に県外の大学へと進学したとだけ親から聞かされた。結局あの彼氏とはどうなったのか、今更詮索することもないけど男と女が一回蟠りを作ったら厄介なもんってのは年齢も関係なくそこら辺にありふれてるもんなんやなと理由のない息苦しさにため息をついた。